No.26

生活とか写真とか音楽とか?あと美味しいもの?

デジタルカメラでの撮影体験を、フィルムカメラのそれに近づける試み。

最近、フィルムカメラ・写真に関するインタビューを受けました。

平岡氏(@yuta_black)のブログ「DRESS CODE.」の「#私がフィルムカメラを使う理由」という連載企画のインタビューです。

下記が記事にして頂いたもので、とても丁寧にまとめて頂いているので、是非読んでみてください・・・!

www.fukulow.info

この記事の中でフィルムカメラとデジタルカメラの違いはなんだと思いますか?という問いかけがあります。

そこに私は媒体の違い(センサーとフィルム)撮影のテンポを挙げました。撮影のテンポについては、細かくいうとフィルムカメラの中でもかなり違います。オートフォーカスが使え、まるでデジカメの操作感で使えるフィルムカメラもあれば、距離計すらついていないものまで様々です。その中でも共通しているのは、撮影直後に結果が見られないという点ですね。

このインタビューの後、僕は悶々と考えていました。もしや僕はこの「撮影直後に結果が見られない」という点にフィルムカメラの楽しさの大部分を見出している説。

背面液晶がないデジタルLeicaを思い出しました。なるほど、Leicaはめっちゃフィルムカメラ好きな人が作っているなと(当たり前か)。

jp.leica-camera.com

そこで、今回は「撮影直後に結果が見られない」を軸に、デジタルカメラでの撮影体験をできるだけフィルムカメラに近づけてみることにしました。

カメラ、特にフィルムカメラを使ったことが無い方にとっては、かなりマニアックな内容かもですが、ご承知おきください。

使用カメラとレンズ

今回の試みに用いた、カメラとレンズをご紹介。

富士フイルム X-Pro2

まず用意したのは富士フイルムのX-Pro2です。

X-H1じゃなくてこっちなのは、フィルムカメラっぽいから(笑)こういうのは大事だと思うのです!見て下さいこのダイヤル。2010年代後半にこのISOダイヤルのデジカメ出してるんですよ?そしてシャッター音も爽快。キミにきめた!ってやつです。

そしてOVF(素通しのファインダー)が使えるのもポイントです。

Carl Zeiss Tessar 45mm F2.8

レンズは、最近買ったTessar 45mm F2.8です。

こちらをマウントアダプターを介してX-Pro2に付けます。

レンズについてはマニュアルレンズでなくとも、富士フイルムの絞り表示がついているレンズをマニュアルモードで使うというのもアリです。

カメラの設定

今回の設定は次の通りです。

背面液晶オフ(EVFのみ)

まずはこれ。背面液晶があるとついプレビューしたくなりますから、無にします。

撮影後のプレビューなし

これは今回の実験にとって、とても大切な要素です。「撮影直後に結果が見られない」という、今回の実験の軸となる設定です。

ISOは400固定で絞り優先モード

ここについてはフルマニュアルにするか迷ったんですが、今回は絞り優先モードで。理由は普段僕がフィルムカメラを使うとき、そうしているからです。

SUPERIA400を使っている気分にすることにして、ISOは400に設定しました。

X-Pro2のメカニカルシャッターのスピードは1/8000ですから、1900年代後半のフラッグシップのフィルム機を使っている気分でいきます。

EVFの情報表示はシンプルに

EVF表示はシャッタースピード、F値、ISO表示のみに。

こちらについては、普段使っているCONTAX RXをイメージしました。

ただEVFはちょっと反則なんですよね。露出補正の結果が現れますから。ただ今回はそこは割り切ることにしました。

MFアシストは「スプリット」モード

MFアシストというのは、EVFでマニュアル撮影する際、ピント位置をわかりやすくするための機能です。

こちらについては主に「カラーピーキング」というモードがよく使われまして、ピント面を赤や青で着色して表示する方法です。これを使うと非常にピントが合わせやすい。

しかしフィルムカメラのファインダーにこのような機能はありませんから、ピーキングは使いません。今回使った「スプリット」はMF一眼レフのピント合わせっぽいなと思い、採用しました。

https://youtu.be/zHC0pbRm7ugyoutu.be

この実写動画ではスプリット部分がモノクロになってますが、一眼レフのファインダー感を出すためにカラーに設定しました。

フィルムシミュレーションはPROVIAでRAW撮影

フィルムシミュレーションというのは、富士フイルムのカメラに搭載されている、往年のフィルムを再現する機能です。一般的なカメラにも「ビビッド」とか「ニュートラル」っていうメニューが用意されていますが、あれと一緒です。

PROVIAは所謂「標準」なので、EVFに特殊な色つけをしない(なるべく見たままに近い)という意味で、選択しました。

RAWモードにした理由は、フィルムは撮影後に「現像」をという過程を経て、写真として完成するからです。今回撮影した写真はLightroomに取り込み、VSCOの「SUPERIA 400」を適用して完成させました。

撮影した写真

ほんとは「36枚フィルムを入れてる気分」にすべく、36枚で撮影を終えようと数えていたのですが、途中でわからなくなってしまいました(笑)

普段デジタルで撮っているとき、こういう写真にはならないですね。

理由は普段ISOオートにしているためで、この明るさならシャッタースピードが結構出ちゃうからです。フィルムカメラ体験とは少し離れますが、普段の撮影手法がマンネリ化していることを気付かされました。

これは最短撮影距離が足りなかったんですが、なんかフィルムでピント外したときみたいですね(笑)

鳩が飛び立つ瞬間を撮ろうとして、盛大に失敗しました(笑)

これらの写真は全てその場ではプレビューせず、家に帰ってPCに取り込んで確認しました。

そして、Lightroomで現像。特に調整はせず、VSCOのプリセットをそのまま充てました。Lightroom現像所のVSCO支店に「微調整なし」のオーダーをして返ってきた体です。

素通しファインダー、目測撮影もやってみた

さて、別日になりますがこんなことも試してみました。

X-Pro2は中々特殊なカメラで、OVFつまり素通しファインダーでの撮影が行えます。ファインダーにはブライトフレームが表示されるので、構図はそこで確認できます。

更に言うと、OVF時にファインダーの端に小さなEVFを表示してピント確認ができたりするのですが、今回は使用しません。

OVFオンリーでの撮影でも、フォーカスポイントが表示され、AFを使うことができます。なのでAF対応レンズの場合はOVFオンリーでも結構撮れる。

しかし今回はMFのレンズ。ピント合わせ、つまり被写体との距離はどう図るかと言うと、目測になります。気分はローライ35ですよ。使ったことないけど。

せっかくなので、普段使っている絞り優先はやめてフルマニュアルでいきました。フィルムはUltraMax 400を想定。

築地で打ち合わせがあったので、その帰り道です。露出は一回計って、その後は状況に応じて勘で調整しました。

絞りはF8で、パンフォーカス撮影。これだと目測でも何とかなりそう(笑)

この写真はちょっと暗かった!もうちょっと絞りを開ければよかったなあ。

逆に明るすぎる。僕の露出感はまだまだです。

これは開放で撮ってやろうと、F2.8で撮影。見事に距離を測り間違えましたね(笑)

この上2枚はちょっと距離を調整してみたんだけど、見事失敗。

かなりハイキーになってしまいました。

ここから若干光も変わってきたので、絞り優先に変更しました。

こちらの写真も、家に帰るまで確認せずです。

感想

改めて、今回の試みのポイントは2つありました。

1つはフィルムカメラっぽい操作で撮影すること、もう1つは今回の試みの軸である撮影直後に写真を確認できないということです。

フィルムカメラっぽい操作で撮影する

今回色々試してみた、フィルムカメラっぽい操作。これは結構撮る画が変わってくるなと感じました。

フィルムカメラで撮ったときのドキドキ感というか、不安定感みたいなのが写真に反映されている感じです。自分がフィルムカメラで撮った写真がなんかいいなあと思っていた要素は、フィルムだからじゃなくて「マニュアル中心の操作から生まれたもの」によるところも結構あるなあと感じました。

ただキヤノンのEOS1vとかニコンのF100みたいに、フィルムカメラだけど操作系はほぼデジカメという機種もあります。なのでこの部分はフィルムというより「カメラが古いことによる操作系の制限」が撮影を面白くする部分で、その不自由さは新しいカメラでも作り出せたりします。ただ制限があるからその範囲でやろうと思えるところもあって、道具って大事だなと思いますね(笑)

撮影直後に写真を確認できない

今回の軸です。僕はここにフィルムカメラの楽しさの大部分を見出している説。最終的には素通しまで試してみましたが、これはかなり撮影テンポを変えてきましたね。

その場で確認できる場合、1発目に撮った写真から想起し、2発目にいく傾向にあります。所謂PDCAがその場で回ります。

対して確認できない場合は、その場面への執着が影響します。まあちょっとブレたかもしれないけど、ここの画はいいやみたいな。PDCAのPDで終わるんですよね。仮にその場面へ執着して、縦構図で撮り直そう、もうちょっと絞って撮っておこうって言うのはPに含まれるのです。

そして撮影から間を置いて、確認する。今回の写真は全て撮影から1時間以上開けてから確認しました。フィルムをスピード現像した場合、最短で確認できる時間を考慮したことによります。

これは撮影後の体験に入るのですが、フィルムが現像から返ってきたときのワクワク感に結構近いんです。これは記憶の定着スピードに起因する気がしました。今回は自分でPCに取り込んで現像しましたが、仮に他の誰かにSDカードを渡して、現像したデータとプリントをもらったりなんかしたら、かなりフィルムの一連の体験に近くなる気がします。

僕がフィルムで撮る理由

フィルムならでは・・・みたいな世界は、結構デジタルでも作り出せるなと感じました。

もちろん巻き上げがなかったり、装填作業がなかったり、ネガを見れなかったり、フィルムしかないことはたくさんあるんですけど。

ここまできて、フィルムで撮るのを止めるかと問われれば、答えはノー。フィルムは続けたい。

理由の1つは、カメラやレンズの選択肢がとても多いこと。現行販売されているフィルムが使えれば、何十年前のカメラでも選択肢に入ります。それぞれの時代で「これが最高!」というカメラやレンズが使えるのは趣味としては非常に深く、楽しいと思います。物としても質感が良いものが多いです。

ただデジタルに関しても、この流れはあるんですよね。例えば5年前のデジカメで撮った写真を、スマホやタブレットサイズで閲覧しても全然綺麗。フィルムカメラの方が歴史を引きずって楽しめる感がありますけど。10年くらい経ったら感覚が変わってるのかな。

もう1つの理由は、やっぱりフィルムが好きということ。

フィルムという媒体に魅力を感じてしまいます。

発色・表現力はもちろんなんですが、この部分はデジタルでも再現出来うるかもしれない。仮にフィルムで撮った写真と、それらしく現像されたデジタル写真を10枚ずつ並べたクイズをしたとして、それをすべて的中させられる人はそういないよなと思います。悔しいけど。

それでもフィルムなのは、フィルムを巡る一連の所作みたいなのが好きなんでしょう。撮った写真がフィジカルとしてそこにあるということだったり、1ロールの枚数制限が心地よかったり、現像に出したり、明日使うフィルムを前日に熟考したり・・・。

これらのほとんどは僕が今回実験したように、デジタルでも「っぽく」できちゃいました。体験としてかなり近いこところまで行って、「その場で確認できないことに楽しさを見出してる」説は結構ありました。じゃあデジタル使えばいいんじゃない?と問われると、いやそうじゃいんだよ〜と言いたくなる。なんか違うんだよな〜ってなるんですよね。

フィルムの場合は、1枚の写真を目にするまでに、これらの過程を通らざるを得ないということに僕は魅力を感じているのかも。これは色んな人に聴いてみたい。フイルムの撮影体験がデジタルでかなり細かく再現できた場合、フイルムやめますか?

prtimes.jp

さて非常に長くなってしまったこの記事の締めは、フィルム写真の展示のお知らせを(僕は出してませんが)。

フィルムフリークな友人達が参加する展示、#filmisnotdeadが5月26日(日)から6月1日 (土)の1週間、デザインフェスタギャラリー原宿で開催されています。

是非チェックしてみてください。